第159回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が開かれ、直木賞に島本理生の「ファーストラヴ」が選ばれた。
「島本理生」が特別に好きだということはない。
『ファーストラヴ』が手許にあるわけでもない。
理生の作品を何編か読んではいた。
『ファーストラヴ』について、「やっぱり」と思う短い書評を読んでいた。
だから、何となく嬉しくなったのだろう。
手に汗握るミステリー。しかも、島本理生だ
からこそ書ける類の。ある夏の日、血まみれの
姿で歩いていた女子大生が殺人容疑で逮捕され
る。彼女の名前は聖山環菜、包丁で刺され死亡
した被害者は彼女の父親で画家の聖山那雄人。
だが、奇妙なことに環菜自身が「動機が分から
ない。」という。臨床心理士の真壁由紀はこの
事件に関するノンフィクションの執筆を依頼さ
れ、被告の弁護人となった義弟の庵野迦葉とと
もに、環菜や周辺の人々への面談を重ねていく。
amazonより
直木賞受賞のニュースの見出しは、こうだ。
直木賞受賞の島本理生さん、育児しながら執筆活動。「18年
来の悲願」と喜び語る
「子どもが産まれてから視野が広がったと思います」
高校在学中に作家デビュー、
芥川賞の候補4回、
直木賞の候補2回から
今回、直木賞を射止めた
こともあるだろう。
受賞コメントに、
子どもが産まれてから視野が広がったと思います。これまでは
自分一人のために書いていた。家族を支えるというと言いすぎか
もしれません。
以前の暗さから脱しているだろうことが、嬉しかったのだ。
理生は高校在学中に作家デビューするが、初期の作品には「不運な生い立ち」を思わせるところが少なからずあった。
ある短編集で森絵都と並んでいたので、「波打ち際の蛍」「君が降る夜」「真綿荘の住人」「リトル・バイ・リトル」「ナラタージュ」などを読み比べた。
若い世代の意味の分からない虚無感や怠惰
な暮らし方を、なお小さい頃のトラウマが作っ
ているようだった。
それを生むのが大人生き方で、私自らの責
任ある言動を求められているようだった。
授賞式での彼女の表情は明るかった。
主人の好物や子どもについての質問ににこやかに答えていた。
それで、私は嬉しくなったのだろう。